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原価法の基礎と評価上の注意点

不動産の評価にはいくつかの考え方があります。その中で「同じ性能・機能を持つ建物をいま新しく建てたらいくらかかるか」という視点から価値を求めるのが原価法(Cost Approach)です。
市場の取引価格や将来の収益に基づく方法とは異なり、再取得コストを基準に現在価値を把握するのが特徴です。公共施設や工場など取引事例が少ない資産のほか、建物の残存価値を知りたい場面で役立つと思います。

原価法の基本的な考え方

(1)評価の原理

原価法は次の考え方に基づきます。
「同等の建物を新たに取得するための費用(再調達原価)から、老朽化や陳腐化による価値の減少分(減価)を差し引く」。

式にすると、
評価額 = 再調達原価 − 減価額
となります。再調達原価は現在の建築単価や設計費などをもとに算出し、減価額には経年劣化だけでなく、機能や社会環境の変化による価値低下も含めます。

再調達原価の求め方

(1)直接法

同等の建物を新築する想定で、工事費・設計監理費・仮設費などを積み上げて算出します。新築や仕様が明確な建物で把握しやすい方法です。

(2)間接法

類似建物の建築単価(㎡単価など)を参考に算出します。既存建物でも適用しやすく、実務では統計資料や積算資料を基に行うことが多いです。

例として、延床面積100㎡・建築単価20万円/㎡なら、再調達原価は100㎡ × 20万円 = 2,000万円となります。

減価修正の考え方

再調達原価を求めた後、以下の三つの要因を考慮して減価修正を行います。

(1)物理的劣化

経年による老朽化や損耗です。外壁のひび、屋根・防水の劣化、配管の傷みなどが該当します。耐用年数や点検記録、修繕履歴を手掛かりに残存率を見積もります。

(2)機能的陳腐化

間取りや設備、断熱・遮音・省エネ性能などが時代に合わなくなったことによる価値低下です。近年は省エネ性能やバリアフリー対応の有無が評価に影響しやすいです。

(3)経済的陳腐化

周辺環境や社会的要因による価値低下です。騒音源の出現、主要施設の移転、用途地域や交通動線の変化などが含まれます。

原価法の計算プロセス(簡易例)

築15年・木造住宅(耐用年数40年)を想定します。

  1. 再調達原価:2,400万円(同等住宅を新築した場合のコスト)
  2. 物理的劣化:経過15年 → 残価率約63% → 2,400万円 × 0.63 = 1,512万円
  3. 機能的陳腐化:10%減 → 1,512万円 × 0.90 = 1,360万円
  4. 経済的陳腐化:5%減 → 1,360万円 × 0.95 = 約1,292万円

このように段階的に減価を反映させて、現在の実態に近い価格水準を求めます。

原価法が適している不動産

  • 公共施設(学校・庁舎・図書館など)
  • 工場・倉庫(特殊仕様や独自設備を持つ建物)
  • 病院・研究施設(市場流通が少ない資産)
  • 新築住宅(建築コストの確認に活用するケースがある)

評価上の注意点と限界

(1)市場価格との乖離

原価法は「建てるコスト」を基準にしており、実際の売買価格と一致しない場合があります。人気や希少性、需給バランスといった市場要素が十分に反映されない点に注意が必要です。

(2)減価の主観性

劣化度合いや陳腐化の見積もりは評価者の判断に左右されがちです。図面・点検記録・修繕履歴・写真などの客観資料をそろえ、複数視点で検証しておくのが安心だと思います。

(3)原価データの鮮度

資材・人件費の変動が大きい時期は、建築単価の上昇で再調達原価が変わりやすいです。最新の積算資料や地域の入札・契約データを確認して、金額の鮮度を保つことが大切です。

他の評価法との位置づけ

評価手法 評価の基準 向いているケース
取引事例比較法 市場の成約価格 住宅地・分譲マンションなど
収益還元法 将来の収益力 投資用不動産・商業施設など
原価法 再調達コスト 公共施設・工場・新築評価など

おわりに

原価法は、建物を「いま建て直すならいくらか」という視点でとらえる評価手法です。減価要因の見極めや原価データの鮮度に配慮しつつ、取引事例比較法や収益還元法と組み合わせて総合判断するのがよいと思います。建物の残存価値を把握するうえで、実務的な意味を持つ方法だと思われます。

reona: