不動産の価値を測る際、「いくらで買うか・いくらで売るか」だけでなく、どれくらいの収益を生み出すかという観点も重要です。賃貸マンション、オフィスビル、商業施設など、収益を目的とする不動産では、将来の収益力をもとに価値を判断する「収益還元法」が用いられます。
その中でも代表的なのが、直接還元法とDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)の2つです。似た言葉として扱われることも多い両者ですが、評価の考え方には違いがあります。
直接還元法とは
(1)基本的な考え方
直接還元法は、1年間の純収益(家賃収入-運営費)を一定の利回りで割り戻して価値を求める方法です。不動産の収益が安定していることを前提としており、「短期的な収益力」から価値を導きます。
(2)計算式のイメージ
不動産価格 = 年間純収益 ÷ 還元利回り(キャップレート)
例:
年間の純収益が300万円で、還元利回りが5%なら、
300万円 ÷ 0.05 = 6,000万円
このように、1年あたりの収益と市場の利回りを使って価格を算定します。
(3)特徴
- 単年度の収益を前提とする「シンプルな手法」
- 家賃や空室率などが安定している物件に向いている
- 不動産会社や銀行の査定でも広く用いられる
(4)メリットと注意点
| メリット | 注意点 |
|---|---|
| 計算が簡単で理解しやすい | 将来の収益変動を反映できない |
| 市場利回りを使うため比較が容易 | 一時的な空室や修繕費があると誤差が出やすい |
DCF法とは(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)
(1)基本的な考え方
DCF法は、将来数年間にわたるキャッシュフロー(純収益)をすべて予測し、それを現在価値に割り引いて合計する方法です。また、最終年度に想定される「売却価格(残余価値)」も現在価値に換算して加えます。
(2)計算式のイメージ
不動産価値 = 各年の純収益の現在価値の合計 + 売却時価の現在価値
ここでの「割引率」は、投資家が求める利回り(リスクを含む)を意味します。
金利や市場のリスク、将来の収益変動を反映できる点が特徴です。
(3)特徴
- 将来の収益を複数年にわたって評価する「長期的視点」
- 賃料上昇・空室・修繕などの変化を織り込める
- ファンド評価や大規模投資案件に多用される
(4)メリットと注意点
| メリット | 注意点 |
|---|---|
| 将来のリスクや変動を反映できる | 前提条件の設定次第で結果が大きく変わる |
| 投資判断に直接活用できる | 割引率や収益予測に専門知識が必要 |
両者の違いを整理する
| 項目 | 直接還元法 | DCF法 |
|---|---|---|
| 評価の視点 | 単年度の収益をもとにする | 将来の複数年収益をもとにする |
| 想定期間 | 1年(短期) | 数年(中長期) |
| 利回りの考え方 | 市場の還元利回り(キャップレート) | 投資家の割引率(リスク込み) |
| 適した物件 | 安定収益型の物件 | 変動収益型・投資型物件 |
| 分析の難易度 | 簡易 | 複雑(シミュレーション要) |
| 主な用途 | 住宅・小規模ビルの評価 | 大型オフィス・再開発・ファンド運用 |
簡単にいえば、
- 直接還元法=現状の収益力を見る方法
- DCF法=将来の収益性を見通す方法
という違いです。
4. 使い分けのポイント
(1)収益が安定している物件には「直接還元法」
たとえば築浅のマンションや、長期テナントが入居しているオフィスなど、今後の収益変動が少ない物件では、直接還元法で十分に精度の高い評価ができます。過去の収益実績をもとに、平均値から還元するのが一般的です。
(2)将来的な変動が大きい物件には「DCF法」
空室率の変動、賃料改定、修繕や再開発の予定など、今後の収益が変動する物件では、DCF法が有効です。将来のキャッシュフローを年ごとに設定し、現実的な割引率を使って評価することで、より実態に近い価値が得られます。
(3)実務では両方を併用することも
鑑定評価や投資分析では、2つの手法を併用して相互に整合性を確認するケースが一般的です。直接還元法で簡易的な相場感をつかみ、DCF法でリスク・収益変動を検証することで、より客観的な評価が可能になります。
評価手法の選び方のヒント
| 判断基準 | 推奨される手法 |
|---|---|
| 収益が安定しており将来の変化が少ない | 直接還元法 |
| 将来の収益変動が大きく見込まれる | DCF法 |
| 投資としての長期収益性を分析したい | DCF法 |
| 簡易な査定や短期判断を行いたい | 直接還元法 |
特に近年は、不動産ファンドやREITなどの運用でDCF法が主流になりつつありますが、
個人投資家や不動産会社の現場では、依然として直接還元法が多く使われています。
おわりに どちらも「収益性を見る」ための道具
直接還元法とDCF法は、どちらも「不動産を収益で評価する」ための手法です。違いは“時間の捉え方”と“前提の精度”にあります。
短期的な安定収益を評価するなら直接還元法、将来の変動や投資リスクまで見通すならDCF法というように2つを使い分けることで、不動産の「現在価値」と「将来価値」の両面を把握できるようになると思います。