不動産投資では、家賃収入がどの程度あれば赤字を避けられるのかを把握しておくことが大切です。表面利回りや実質利回りだけでは見えにくい部分があり、固定費や変動費の大きさによって収支のバランスが変わるためです。損益分岐点は、収入と支出が同じ水準になる点を指し、このラインを上回る運用ができているかどうかを見ることで、投資の安定性を確認できます。
損益分岐点の考え方
損益分岐点は、収益から支出を差し引いた結果がゼロになる地点です。不動産投資では、管理費や修繕積立金、保険料、固定資産税などの固定費が必ず発生するため、この費用に加えてローン返済の一部も考慮する必要があります。収入がこのラインに届かないと赤字になり、十分に上回れば黒字になります。
損益分岐点の基本式
損益分岐点 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
不動産投資の場合、変動費率はそこまで大きくないことが多いため、固定費の把握が中心になります。入居率の変化による家賃収入の増減と、毎月かかる費用の比率を整理しておくと収支の動きが把握しやすくなります。
固定費と変動費を整理する
損益分岐点を考えるうえで、どの費用が固定費に当たり、どの費用が変動費に当たるのかを整理すると判断しやすくなります。
固定費の例
- 管理費・修繕積立金
- 火災保険・地震保険
- 固定資産税・都市計画税
- ローン返済の利息部分
変動費の例
- 入退去に伴う原状回復費用
- 広告費・仲介手数料
- 突発的な小規模修繕
不動産投資では固定費の割合が比較的高いため、空室期間が長くなると収支が一気に悪化しやすくなります。損益分岐点を把握することで、どの程度の入居率が保てれば安定運用につながるかを把握できる点がメリットです。
損益分岐点を使ったシミュレーション
簡単なモデルケースを使い、損益分岐点と収支バランスの確認方法を紹介します。
条件例
- 年間家賃収入:1,200,000円
- 年間固定費:600,000円(管理費・修繕積立金・税金など)
- 年間変動費:120,000円(入退去の発生を想定)
変動費率の計算
変動費率 = 120,000 ÷ 1,200,000 = 10%
損益分岐点の計算
損益分岐点 = 600,000 ÷(1 − 0.1)= 約 666,667円
この場合、年間の家賃収入が約 666,667円を下回ると赤字になり、上回ると黒字になります。家賃収入 1,200,000円の物件であれば損益分岐点を十分に上回っているため、収支としては安定しているといえます。
損益分岐点を使うと見えてくること
損益分岐点を確認すると、収益がどの程度の水準まで下がると赤字になるのかがわかり、空室リスクや家賃下落リスクへの備えがしやすくなります。また、複数の物件を比較する際にも、固定費の割合が高い物件は損益分岐点が高くなり、収支の安定性が低くなる点に気づきやすくなります。同じ利回りでも、固定費の差が大きいと損益分岐点が大きく変わるため、実質的な収益性に差が生まれることがあります。
収支バランスを確認しながら物件を比較する
損益分岐点の高さは、投資家にとって重要な判断材料です。損益分岐点が低い物件は、多少の空室や家賃変動があっても黒字を保ちやすい特徴があります。一方で、固定費が高い物件や大規模修繕が近い物件は損益分岐点が高いため、収支の安定性に注意する必要があります。家賃収入と支出のバランスを見ながら、どの程度の変動が許容できるかを整理しておくと、投資判断が現実的になると思います。
損益分岐点を活用したリスク管理
損益分岐点は、運用中の収支が計画からどれだけ離れているかを把握するうえでも役立ちます。実際のキャッシュフローが損益分岐点の近くにある場合、運用改善や支出見直しが必要になる場面があります。逆に、十分に上回っている場合は、長期的な資産価値や売却計画を検討しやすくなります。毎年の収支に応じて損益分岐点がどう変化するかを確認する方法が、実務面では取り入れやすいと感じます。

