不動産の売買や賃貸は、金額が大きいだけでなく、権利関係や法令、契約条項などの情報量も多くなりがちです。そのため、利用者側が「説明が適切だったか」「手続きが正しい順序で進んでいるか」を、その場で判断するのが難しいことがあります。
宅建業法で定められた業者の義務は、取引を安全に進めるための最低限の枠組みです。義務の内容を知っておくと、営業トークの上手さだけではなく、取引の中身で不動産会社を見られるようになると思います。
宅建業法の義務は「取引の透明性」を作る仕組み
宅建業法の義務は、単に業者を縛るためのルールではなく、取引の透明性を確保するための仕組みとして整理すると理解しやすくなります。
具体的には、次の3つの観点が中心になります。
- 情報開示の義務(重要事項説明・書面交付など)
- 表示・広告の義務(免許の表示、誇大広告の禁止など)
- 金銭と記録の義務(手付金等の保全、帳簿の備付けなど)
免許・表示に関する義務
免許番号や標識の掲示は「正規業者であること」の入口
宅建業者は、事務所や広告で免許番号等を表示し、事務所には所定の標識を掲示する義務があります。この義務の意味は、利用者が業者の身元を確認できる点にあります。
たとえば、広告や店舗で免許番号の表示が見当たらない場合は、単純な掲示漏れの可能性もありますが、確認したくなるポイントだと思います。
免許番号のカッコ内の数字(更新回数)だけで業者の良し悪しは判断しにくいものの、最低限の情報としては役立ちます。
体制に関する義務
専任の宅地建物取引士の設置が担う役割
宅建業者は、事務所ごとに専任の宅地建物取引士を一定数配置する義務があります。この義務は、取引の局面で専門知識のある人が関与できる体制を確保する目的だと考えると分かりやすいと思います。
実務では、営業担当者が説明を進め、重要事項説明のタイミングで取引士が出てくる流れもあります。その場合でも、重要事項説明が形式だけになっていないか、書面の中身に沿って説明しているかは確認したいところです。
広告・勧誘に関する義務
誇大広告の禁止は「安心させるための言い回し」に注意が必要
宅建業法では、実態より著しく有利に見せる表示や、事実と異なる表示が禁止されています。分かりやすい例としては、駅距離、面積、築年数、眺望、管理状態などで誤解を招く表現が挙げられます。
売却側の場面でも、買主募集の広告内容が正確でないと、内見後に期待と現実の差が大きくなり、価格交渉が厳しくなることがあります。
広告は集客のためのものですが、成約まで見据えると、正確さが重要だと思います。
不当な勧誘にならないための線引き
契約を急がせる言い方や、十分な検討時間を与えない進め方は、トラブルの火種になりやすい印象があります。
法律上の評価はケースによりますが、利用者としては、説明が省略されていないか、質問に正面から答えているかを見たいところです。
契約前の説明に関する義務
重要事項説明は「契約判断の材料」を契約前に出すための義務
重要事項説明は、契約前に、宅地建物取引士が書面を用いて行うことが求められます。ここでのポイントは、説明のタイミングが「契約後」では意味が薄い点です。
契約内容を理解し、条件を調整する余地がある段階で情報が出ることに価値があると思います。
重要事項説明で特に確認したくなる項目
重要事項説明書は分量が多くなりやすいですが、売買の場面では次のような項目が実務上の争点になりやすい印象があります。
- 権利関係(所有権、抵当権など)
- 法令上の制限(用途地域、建ぺい率・容積率、接道など)
- インフラ・設備(上下水道、ガス、越境の有無)
- マンションの場合の管理(管理費・修繕積立金、長期修繕計画、修繕履歴)
- 契約解除・違約金の条項
すべてを暗記する必要はないと思いますが、後から揉めやすい論点が「説明書のどこに書かれているか」を押さえるだけでも安心感が違ってきます。
書面交付に関する義務
「口頭で言った/聞いていない」を減らすための義務
重要事項説明書や契約書面など、所定の書面を交付する義務があります。実務ではPDFでの交付も増えていますが、重要なのは、書面が手元に残り、後から参照できる状態になっていることだと思います。
口頭説明だけで進むと、記憶違いが起きやすく、売主・買主・業者の三者の認識差が大きくなりがちです。書面交付は、取引の記録を残す意味でも重要です。
金銭に関する義務
手付金等の保全措置が必要になる場面
一定の条件に該当する場合、業者が受け取る手付金などについて保全措置が求められます。これは、万が一業者側に問題が生じた場合に、取引相手の損害を抑えるための仕組みです。
実際の取引では、金銭の授受タイミングが早いほど不安が出やすいので、支払いの理由と保全の考え方を説明してくれるかどうかが安心材料になりやすいと思います。
報酬(仲介手数料)も「分かりやすく説明されるべき項目」
仲介手数料の上限は法律で枠組みがあり、取引金額に応じて計算されます。一方で、実務上は「いつ・いくら・何の対価として」発生するかが曖昧なまま進むと、不満や誤解につながりやすい印象があります。
説明の明瞭さは、業者選びの評価軸になりやすいと思います。
帳簿・記録に関する義務
帳簿の備付けは「取引の経緯が追える」状態を作る
宅建業者は、取引に関する帳簿を作成し、一定期間保存する義務があります。これは、取引後に争いが生じた場合でも、経緯を確認できる状態を作る目的があると整理できます。
利用者側からすると、トラブルが起きないに越したことはありませんが、万が一のときに「言った/言わない」だけにならない点で意味があると思います。
保証制度への加入義務
宅建業者は、営業保証金を供託するか、保証協会に加入する必要があります。この制度は、取引相手が損害を受けた場合の救済の枠組みとして機能します。
ここは普段意識しづらい部分ですが、制度として存在することが、業界全体の信頼性を支える土台になっていると思います。
義務を「確認ポイント」に落とし込むと安心しやすい
宅建業法の義務は、条文として読むと難しく感じますが、取引の現場では確認ポイントとして使うと実感が湧きやすいと思います。
- 免許番号・標識の掲示が分かりやすいか
- 重要事項説明が契約前に、書面に沿って行われているか
- 書面が手元に残り、後で参照できる状態になっているか
- 金銭の支払いタイミングと理由が、筋道立てて説明されているか
- 質問への回答が曖昧ではなく、根拠とセットで返ってくるか
これらが揃っていると、取引が丁寧に運ばれている可能性が高いと考えやすくなります。

